コーチ(COACH)の歴史と伝統について
2018/02/05
バッグを中心に、時計やウェアなど、幅広いファッションアイテムを揃えるアメリカのブランド「コーチ(COACH)」。
アクセシブル・ラグジュアリー=手の届くぜいたく品をブランドコンセプトに掲げ、年代や性別を超えて世界中で幅広い支持を集めています。
コーチの人気の秘密をまずはその歴史から紐解いていきましょう。
たった12個のバッグから伝説が始まる
コーチ(COACH)は1941年、ニューヨーク・マンハッタンのソーホー地区にある倉庫スペースで、「ゲイル」という社名で創業したのが始まりです。
立ち上げたのは、マイルズ・カーン、リリアン・カーン夫妻と6名の職人たち。
紳士向けの皮革製品を下請生産する小さな工房でしたが、卓越した技術を持つ腕利きの職人たちによる手仕事が人々の目に留まり、徐々にその名を確立していくことになります。
そんなある時、野球を観戦していたマイルズ・カーンは、野球のグラブのように丈夫でしなやかな美しいレザーが作れないかと考えました。
そうしてオリジナルのレザー素材の開発に着手し、1958年に「グラブタンレザー」が完成。
1960年代には、グラブタンレザーと職人技を駆使して作り上げた12個のバッグを「コーチ」のブランド名を冠して発表すると、耐久性の高さと丁寧な手仕事による品質の良さからコーチのバッグが大人気となります。
時を同じくして、社名もゲイルからコーチ(COACH)に変更。どこにでもあるような小さな皮革工房が快進撃を成し得た背景には、徹底したクラフトマンシップがありました。
クラシカルなデザインからの脱却
1962年には、映画『王様と私』などの衣装を手掛けたボニー・カシンがデザイナーとして入社。
「女性のためのバッグを作る」というコンセプトを掲げ、次々と新しいデザインのバッグを発表します。
買い物袋から着想を得た「カシン・キャリー」や「バケットバッグ」などの「ショッピングバッグ・コレクション」を発表すると、女性たちの間で大ヒット。
1973年には、グラブタンレザーを使った「ダッフルサック」が若者の間で流行し、斜め掛けにもできるスポーティーなデザインが人気を集めました。
オープンカーの留め具からヒントを得た「ターンロック」と呼ばれる留め具や、犬の首輪と引綱を繋げるために使われていた金具「ドッグリーシュ」を女性向けバッグに採用するなど、ボニーならではの斬新でユニークな発想が、コーチの繁栄をさらに前進させることになります。
世界へ羽ばたきはじめたコーチ(COACH)
バッグのみならず、女性向けアクセサリーも多数展開したボニー・カシンの活躍によって1970年代に順調に売り上げを伸ばしたコーチ(COACH)は、アメリカ全土への販路拡大を計画。
1979年に新規事業開発担当副社長として入社したルー・フランクフォートは、カタログの制作や直営店の出店などで知名度アップと販売経路の多角化を行うと、コーチ(COACH)の名は全米に広く知れ渡るようになりました。
さらに、1985年にはヘインズなどを擁する世界最大のアパレルメーカー、サラ・リー コーポレーションの傘下となり、コーチ(COACH)は世界をターゲットとするグローバルなトータルファッションブランドとしての地位を築き始めることになります。
歴史を変えたシグネチャー・コレクション
コーチ(COACH)最大の転換期をもたらしたのは、1996年にエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任したリード・クラッコフの存在です。
コーチの「C」のロゴが連続するモノグラムデザインが特徴の、ナイロンやキャンバス地を使った「シグネチャー・コレクション」を2001年に発表すると、高品質な皮革製品をメインにしていたそれまでのコーチ(COACH)にはないカジュアルで新鮮なデザインが、瞬く間にブームとなりました。
リード・クラッコフによるこのシグネチャーは、今なおコーチ(COACH)のアイコン的存在であることは改めてお伝えするまでもありませんね。
創業者のカーン夫妻引退後はルー・フランクフォートが会長となり、商品デザインやブランドイメージの統一を行って、コーチ(COACH)を世界のトップブランドへと発展させていきます。
伝統と革新が共存するブランドへ
2013年からエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任したスチュアート・ヴィヴァースは、これまでのブランドイメージに囚われない、革新的でモダンなアメリカン・スタイルの新たなコーチ(COACH)の魅力を発信しています。
また、ブランド名はそのままに、2017年10月には社名をコーチ(COACH)から「タペストリー(Tapestry)」に変更。
先人たちが築き上げた偉大な功績を超えて、さらなる飛躍を遂げようとするその姿に熱い注目が集まっています。
コーチ(COACH)のバッグひとつに使用する部材は100を超えるといわれ、その一つひとつは職人の手作業によって作り上げられています。そうした緻密な工程を経た製品であっても驚くほど高価にはせず、多くの人が手に取って楽しめる高級品であることをコンセプトとするコーチだからこそ、より身近に本物を感じられるブランドとして、今なお新たなファンを増やし続けているのでしょう。
Written by 上田勝太
上田 勝太
ゴールドプラザ 主任鑑定士
1985年生まれ 鑑定士歴15年
月次の最高買取金額10億円 各ニュースに出演