ケリング(KERING)グループとは
2019/05/12世界3大ラグジュアリー・コングロマリット(複合企業)として有名な「ケリング(KERING)」グループ。実は、グループ名を変更したのは最近のことで、その前身はグッチ(GUCCI)の買収劇で名を馳せたPPR(ピノー・プランタン・ルドゥート)グループです。そんなグループの生い立ちと代表するブランドを紹介したいと思います。
世界的ブランドを抱える「ケリング(KERING)」グループとは
カルティエ(Cartier)・ヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)・ピアジェ(PIAGET)・インターナショナルウォッチカンパニー(IWC)などを束ねるスイスの「リシュモン(Richemont)」グループ、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton )・ブルガリ(BVLGARI)・セリーヌ(CELINE )・ベルルッティ(Berluti )などを傘下に持つフランスの「LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)」グループと並び、「世界3大グループ企業」や「世界3大ラグジュアリー・コングロマリット(直接の関係を持たない複合企業体)」などと称される「ケリング(KERING)」グループ。
1963年にフランス・レンヌにて、フランソワ・ピノーが「ピノー・グループ」として創業したのが始まりで、当初は木材を主な商材として扱っていました。その後フランス国内において流通業大手に成長し、1988年にはパリ証券取引所に上場、1991年に1865年開業のパリの老舗百貨店「プランタン」を買収し(2006年売却)、社名をPPR(ピノー・プランタン・ルドゥート)と改名します。その後、1990年代後半からグッチ(GUCCI)やバレンシアガ(BALENCIAGA)など、世界的有名ブランドを次々と傘下に収め、PPRグループは、フランスの大手流通会社から世界的なブランド王国へと変貌を遂げます。
2005年には、創業者フランソワ・ピノーの息子フランソワ・アンリ・ピノーがCEOに就任し、2013年に社名を「ケリング(KERING)」に変更します。ケリング(KERING)の「KER」は、フランスのブルターニュ地方では「家」「住みか」を表し、「ING」はその進行形として、ブランドの集まる家とその家が成長し続けると言った意味が込められていると言われています。また、ケリング(KERING)は若手ブランドの発掘や育成にも定評があり、その代表としてステラ・マッカートニー(Stella McCartney )やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen )などが挙げられます。現在の本社所在地はフランス・パリで、日本法人としてケリングジャパンがあります。
グループを代表するブランド
グッチ(GUCCI)
世界で初めて品質保証としてデザイナー(創業者グッチオ・グッチのイニシャル)の名前を刻印した「ダブルG」のモノグラムが有名な、「ブランドの元祖」と呼ばれるグッチ(GUCCI)。高級皮革製品を取り扱う工房として、1921年にイタリア・フィレンツェにて創業し、その製品へのこだわりと、品質の高さ、革新的で洗練されたデザインは瞬く間に世界的に人気を博します。
1990年代に入ると創業家のお家騒動などの影響により、経営が不安定になり、バレンシアガ(BALENCIAGA)・ブシュロン(BOUCHERON)・サンローラン (SAINT LAURENT)・ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)と言ったブランドとともにグッチ・グループ形成し、経営の安定化を計ります。1999年には、PPRグループ(現:ケリング)がグッチ・グループの42%の株式を購入することによって経営戦略的な側面から業務提携をし、グッチ(GUCCI)は傘下に入ります。統制品として皮革が手に入らない第二次世界大戦中に、その代用品としてキャンバス地にコーティングを施し、持ち手部分に竹を使用した「バンブー」。グッチオの三男アルドのアイデアにより生まれた「ビットモカシン」など、今でもグッチ(GUCCI)を象徴する代名詞の数々は世界中から愛されています。
バレンシアガ(BALENCIAGA)
フランスのブランドとして有名なバレンシアガ(BALENCIAGA)ですが、実は1900年代初頭にスペインにて創業したのが始まりです。1936年にスペイン内戦が勃発すると店をフランスのパリに移したことで、フランスのブランドとして定着します。創業者でありデザイナーのクリストバル・バレンシアガは、オートクチュールを得意とし、クリスチャン・ディオールやココ・シャネルといった有名デザイナーからも一目置かれ、後に「クチュール界のピカソ」や「クチュール界の建築家」と有名専門誌から評されるほどでした。そんなクリストバルが亡くなるとブランドは経営危機に陥り、2001年にPPRグループ(現:ケリング)傘下に入り、ウェア・靴・バッグなどトータルで展開するブランドとして生まれ変わり現在に至ります。
日本でも、代名詞のエディターズバッグ「シティ」やバッグのディテールを取り入れた財布「クラシックマニー」、折り財布やミニ財布として定番の「ヴィル ミニ ウォレット」「ペーパー ミニ ウォレット」などが人気を博しています。
ブシュロン(BOUCHERON)
1900年代中頃、パリの観光地として有名なヴァンドーム広場の界隈にあった高級宝飾店で結成された「フランス高級宝飾店協会」。その協会員である5つのジュエラーの総称を「グランサンク」や「パリ5大宝飾店」と呼び、ブシュロン(BOUCHERON)はその一つとして知られています。1858年創業で、グランサンクの中ではヴァンドーム広場に、いち早くアトリエを構えたジュエラーです。
1999年にグッチ・グループの一員として、PPRグループ(現:ケリング)の傘下に入ります。ブシュロン(BOUCHERON)のアイテムは、独特の輝きを放つ「ブシュロンゴールド」や、ヴァンドーム広場の円柱をモチーフにデザインされた時計の針が有名で、人気のラインとしては、個性豊かな4つのデザインが美しくまとまったリング「 キャトル」、ダイヤモンドのファセットカットをイメージしたデザインの「ファセット」、ヴァンドーム広場の石畳をモチーフにした「クル ド パリ」などがあります。
サンローラン (SAINT LAURENT)
フランス領アルジェリア出身のデザイナーで「モードの帝王」と呼ばれたイヴ・サンローランが、1962年に設立したブランドで、2012年の改名まではブランド名「イヴ・サンローラン」で知れ渡っています。若き頃、クリスチャン・ディオールのもとで学び、ディオールが急逝したため独立し、2002年の引退まで世界的なデザイナーとして約40年間にわたり活躍します。彼が「モードの帝王」と呼ばれる所以は、「モンドリアンルック」「スモーキング」「シースルー」「サファリルック」「パンタロン」など今では皆が知っている数々のファッションスタイルを確立したことにあります。
PPRグループ(現:ケリング)には、1999年にグッチ・グループの一員として傘下に入ります。ブランド「イヴ・サンローラン」と言えば「YSL」のロゴが有名ですが、イヴ・サンローランの死後、新たにデザインディレクターに就任したエディ・スリマンのもと、ブランド名を「サンローラン (SAINT LAURENT)」に改名し、「YSL」のロゴも撤廃しました。ただし、化粧品部門のみ「イヴ・サンローラン・ボーテ」として「YSL」のロゴは残っています。
ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)
1966年にイタリア・ヴィチェンツァにて創業のボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)は、イタリアンレザーを取り扱う高級革製品ブランドとして有名です。多くのブランドが創業者の名前からブランド名が付けられていますが、ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)は、イタリアの美しい町並みで知られるヴィチェンツァにちなみ「ヴィチェンツァの工房」という意味のブランド名です。1980年代から経営に陰りが見え始め、2001年にグッチ・グループの一員として、PPRグループ(現:ケリング)の傘下に入ります。
そんなボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)の代名詞といえば「イントレチャート」というイタリアの伝統的な革工芸技法です。その技法で作られた財布やバッグ等は、イタリアンレザーの持ち味を最大限に発揮し、今も人気が衰えません。
ジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)
1791年にスイスにて、時計職人のジャン・フランソワ・ボットが時計工房を構えたことを始まりとするジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)は、創業以来一度も時計製造を止めずに自社で一貫生産する世界的に貴重なマニュファクチュール(自社一貫生産する時計メーカー)です。1856年にコンスタン・ジラールが自身の時計工房を開き、1906年にそのコンスタンがジャン・フランソワ・ボットの工房を吸収し、コンスタン・ジラールと妻マリー・ペルゴから名前をとり、ジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)というブランド名になったと言われています。ちなみにマリーの弟フランソワ・ペルゴは、幕末の日本に来日し、横浜の商館にてジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)の懐中時計の販売をしたそうです。
その後、1969年には日本のセイコーに次ぎ、クォーツ時計の開発・量産に成功します。1993年にはイタリアのフェラーリとのブランドライセンス契約を締結し、2011年にPPRグループ(現:ケリング)の傘下に入ります。代表作として、「ロレアート」「GP7000」「ヴィンティージ1945」「ジラール ペルゴ1966」などが有名です。
ポメラート(Pomellato)
1967年に、金細工職人の家系に生まれたピノ・ラボリーニによりイタリア・ミラノで設立されたジュエリーブランド「ポメラート(Pomellato)」は、創業当時に主流のオートクチュールに代わり、プレタポルテをコンセプトにしたピュアな色使いと型にはまらないデザインジュエリーで世界的に注目を集めます。特に金細工には定評があり現在も100名を超える職人たちが、高いクラフトマンシップのもとジュエリーの制作を行っています。1995年にはドド(DoDo)というクマなどの動物がモチーフのアクセサリー扱う姉妹ブランドを発表し、人気を博します。
2013年には、改名したケリング(KERING)グループの傘下に入りました。人気のコレクションとして「ヌード」「マーマノンマーマ」「カプリ」「サッビア」「シトリン」「イコニカ」などがあります。
ユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)
ユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)は、時計職人ユリス・ナルダンが1846年スイスで創業した高級時計ブランドで、特に揺れる船上でも正確に時を刻む航海時計(マリン・クロノメーター)と天文時計が有名で、ブランドのロゴも「錨(いかり)」のマークがあしらわれています。また、その性能の高さの証として多くの海軍にユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)の時計は採用されていました。1970年代に入るとセイコーのクォーツ式時計の爆発的なヒットにより、経営難に陥りますが、投資家による買収や天才時計技師として知られるルートヴィッヒ・エクスリン博士との商品開発により復活を果たします。2014年にはケリング(KERING)グループの傘下に入ります。
ユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)の時計で特に有名なのが、前述の博士と開発した「天文三部作」と呼ばれる歴史上の天文学者の名を配した時計たちで、1985年発表でギネスブックにも載った「アストロラビウム・ガリレオガリレイ」、1988年発表の「プラネタリウム・コペルニクス」、1992年発表の「テリリウム・ヨハネスケプラー」が挙げられます。そのほかにもリューズがない7日巻きの時計「フリーク」などを発表し今も意欲的に開発に取り組んでいます。
以上になりますが、「ケリング(KERING)」グループにはこの他にもたくさんのブランドが傘下に入っています。また、近年ではスポーツメーカーのプーマ(PUMA)を2007年に買収し、2018年にラグジュアリー事業に特化するため売却して話題になりました。そして2019年4月に起こったフランス・パリの象徴「ノートルダム大聖堂」の火災による消失で、真っ先に復興のための寄付に手を挙げたのもケリング(KERING)でした。今後も話題性に事欠かない「ケリング(KERING)」グループに目が離せません。