ハンガリーの名窯「ヘレンド(HEREND)」とは

2023/04/07

ドイツの「マイセン(MEISSEN)やイギリスの「ウェッジウッド(WEDGWOOD)」などと並ぶ、ヨーロッパを代表する陶磁器ブランド「ヘレンド(HEREND)」。190年以上の歴史を持ち、ハンガリーの帝室・王室御用達でありながら、ヨーロッパ各地の王侯貴族からも愛されてきた名窯です。今回はそんなブランドの歴史や特徴、代表作(シリーズ)について紹介させていただきます。
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ヘレンド(HEREND)の歴史

ヨーロッパを代表する高級磁器ブランド「ヘレンド(HEREND)」。創業から手づくり・手描きの伝統を守り生まれた作品の数々は、ハンガリーの帝室・王室をはじめ、イギリス王室、フランス皇室、ロスチャイルド家など欧州の王侯貴族たちに愛されてきました。
その始まりは、現ハンガリーの首都ブダペストから南西に向かった中央ヨーロッパ最大の湖バラトン湖に近い、ヘレンド村にて1826年に民間の磁器工房として、創業者ヴィンツェ・シュティングルにより開窯します。当時は、地元の陶芸家などが手間をかけひとつひとつ手作業で作っていましたが、2代目経営者のモール・フィッシャーが1839年に事業を継承すると、貴族達からの支援を受け工房の生産プロセスを修正し生産量を増やすことに成功します。1842年には、ハンガリーの産業博覧会に出品し高い評価を得て、オーストリア=ハンガリー帝国の帝室・王室御用達の「ヘレンド磁器製作所」として承認されます。
1851年イギリス・ロンドンにて、世界初の万国博覧会が開催されると作品を出品。英国ヴィクトリア女王から、「ヘレンド(HEREND)」のディナーセットの注文を受けたことが知れ渡ると、一躍ヨーロッパ中にその名声が広まりました。
1864年には、ハプスブルグ家の王立ウィーン窯(ロイヤル・ヴィエナ、ヴィエナ窯)が閉窯されることで、ハプスブルグ家出身のオーストリア皇帝兼、ハンガリー国王のフランツ・ヨーゼフ1世の下知により、門外不出の絵柄であった「ウィーンの薔薇」「パセリ」などが、「ヘレンド(HEREND)」に継承されました。
一方、フランスの皇帝ナポレオン三世の皇后ウジェニーが、フランツ・ヨーゼフ1世をもてなす食器として、ヘレンドの東洋趣味の絵柄「インドの華」を購入すると、たちまちフランスの貴族の間で流行しました。
1870年代に入ると、政治家アルバート・アポニーの注文により生まれた、現代でも不動に人気を誇る「アポニー」シリーズの原型となった絵柄「アポニー・グリーン」、フランツ・ヨーゼフ1世の皇后エリザベートが過ごしたゲデレ宮殿から着想を得て、シノワズリ(東洋画・東洋趣味)で描かれた「ゲデレ」など、名作が誕生します。
1896年、2代目モール・フィッシャーの孫であるイエノー・ファルカシュハージーが経営を引き継ぎ、1900年代に入ると各地の博覧会などで様々な栄誉を受けます。しかし、第一次世界大戦、第二次世界大戦の影響で次第に工房は衰退し、戦後の1948年国有化されていた「ヘレンド(HEREND)」は、再び民営化することで高級磁器ブランドとしての地位を取り戻していきます。
2011年のイギリス王室・ウィリアム王子とキャサリン妃の婚礼の際には、ロイヤルギフトを贈呈し、そのモチーフを商品化した「ロイヤル・ガーデン」シリーズは人気を博し、再び「ヘレンド(HEREND)」の存在を世界中に知らしめました。
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ヘレンド(HEREND)の特徴

「ヘレンド(HEREND)」の最大の特徴といえば、マスター制度により守り継がれるクラフトマンシップです。もう少し具体的に言いますと、手づくり・手描きの伝統を守るための制度により、高いクオリティを保ちながら、後世に技術を継承していくシステムになります。そして、他の追随を許さないその技術こそが「造形」と「絵付け」になります。
まず「マスター制度」とは、そもそもドイツで生まれた各工程の専門的な技術力を基準に、厳格な試験によりマスターの資格を設けた制度であり、産業革命以降の機械化により衰退していきました。ひとつひとつを手づくり・手描きをすることにこだわった「ヘレンド(HEREND)」においては、今もこの制度を守り続けています。そして、マスターの称号を獲得するには、ポター(陶工)であれば造形スタイル、ペインターであれば絵付けスタイルを習熟し、マスターとしての品格や知識も兼ね備えた上で、厳しい試験を通過しないと得られません。実際に、今日のヘレンド(HEREND)においても、マスターの称号を持つものは一握りに過ぎません。

ポター(陶工)と造形技法

ポター(陶工)とは、粘土を使って磁器を造形していく仕事で、ヘレンド(HEREND)の代表的な造形技法には、紐状の粘土をカゴを編むように造る「ヌードルワーク」、食器の蓋のつまみ部分や取っ手・花びらの造形など手で捻って形造る「手ひねり」、粘土の半乾き状態から刃物で彫刻のように削り模様を描く「透かし彫り」などが挙げられます。小さな小物から飾り壺のような大きなものまで、様々なカタチを造り出しています。

ペインターと絵付け技法

ペインターとは、磁器に絵付けをする仕事で、その絵付け技法は、西洋・東洋・ペルシャなど様々な文化が入り混じるハンガリーという土地柄もあり、多様な趣味・趣向のものが多く、ヨーロッパ伝統の「写実画」、東洋画・東洋趣味の「シノワズリ」、ペルシャにルーツを持つ「細密画」、うろこ模様(エカイユ)を取り入れた「フィギュリン」と大きく4つのカテゴリーに分けられており、5つのペインター専用の作業部屋もカテゴリーごとに4つに振り分けられ、最後の1つはマスターペインターの部屋となっています。また、作品の裏にサインを入れることが許されているのもマスターペインターのみになります。
特にヘレンド(HEREND)を代表する「シノワズリ」は、古今東西大人気の絵柄で、取っ手やつまみ部分等に中国の役人をモチーフに描かれた「マンダリン」はブランドのアイコンとして知られています。

ヘレンド(HEREND)を代表するシリーズ

創業から長い歴史の中で手づくり・手描きにこだわり、高い芸術性で世界中の人々を魅了してきた「ヘレンド(HEREND)」の作品は多岐に渡りますが、その中でも特に有名な代表作(シリーズ)を紹介させていただきます。

ヴィクトリア

英国で開催された万国博覧会にて、英国ヴィクトリア女王から注文を受けたことからその名が付けられたコレクションで、19世紀初頭のイギリスらしさが反映された美しいデザインが特徴です。フラワーパターンや鳥の絵などが描かれた食器や置物などがあり、「ヘレンド(HEREND)」の出世作として知られています。

ウィーンの薔薇

ハプスブルグ家の王立ウィーン窯(ロイヤル・ヴィエナ、ヴィエナ窯)が閉窯されることで、「ヘレンド(HEREND)」に継承された門外不出の絵柄で、ウィーンの伝統的なデザインを取り入れたシリーズで、ピンクや緑の薔薇の花が美しく描かれています。2012年には、国王フランツ・ヨーゼフ1世の皇后エリザベート生誕175年を記念して、「ウィーンの薔薇・ピンク」が発表されています。

パセリ

「ウィーンの薔薇」同様、ハプスブルグ家の門外不出の絵柄で、1864年に「ヘレンド(HEREND)」に継承され、パセリの葉をモチーフにしたデザインが特徴のシリーズです。色合いはグリーンを中心に、シンプルで上品な印象です。

インドの華

19世紀に考案され、フランス皇帝ナポレオン三世の皇后ウジェニーが、ハンガリー国王をもてなす食器として購入したことが有名で、現在でも人気が高く、「ヘレンド(HEREND)」のシンボル的な作品の一つとして知られています。通称「ヘレンド・グリーン」と呼ばれる可憐な緑色の花柄が美しい作品で、淡いピンクやブルーの花柄のシリーズも展開しています。

アポニー

1870年代、政治家アルバート・アポニーの急な注文により、前述の「インドの華」をアレンジして生まれたシリーズで、今もコレクターの間で人気が高い「アポニー・グリーン」を筆頭に、世界的なベストセラーとして知られるシリーズです。

エリザベートの薔薇

ハンガリーをこよなく愛した皇后エリザベートにちなみ、生前に過ごしたゲデレ宮殿の修復完成記念として、1948年に発表されたシリーズです。ピンクの可憐な薔薇の絵柄と金彩が施された意匠は、名前の通り高貴な雰囲気を醸し出す作品です。

ロスチャイルド・バード

ヨーロッパの名門貴族ロスチャイルド家の注文により生まれたシリーズで、「異郷の鳥」のモチーフに描かれた絵柄は、「ヘレンド(HEREND)」を代表するシノワズリの一つです。2020年には「ロスチャイルド・バード」が誕生して160年を記念し、ゴールドスケールのアニバーサリーシリーズも販売されました。

そのほかにも、開窯190周年を記念し発表されたピンク色が印象的な「メモリアルローズ」、皇后エリザベートが愛したすみれの花をモチーフにした「バイオレット」、角笛をモチーフにデザインされた「トゥッピーニの角笛」、可憐な小花が描かれた「ミルフルール」など、人気シリーズは多数存在します。

最後に、ハンガリーという国はアジアにルーツがある騎馬民族から生まれた国と言われています。多様な文化を取り込むことで美の深みを増す「ヘレンド(HEREND)」の作品群が、今も昔も世界中から愛される所以はそこにあるのでしょう。

Written by 上田勝太

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