2023年「金相場」の変動と今後の予測に関して(前編)

2023/10/11


2023年8月、1グラムあたりの金価格が1万円台と過去最高値を更新し世間を賑わせました。マスコミ等でも日々報道されておりますが、一体「金相場」とはどんな仕組みで、どのような事象で上がったり下がったりするのか。前編では2023年までの過去の出来事を振り返りながら解説させて頂きます。

「金相場」の仕組みについて

貴金属としても重宝されている「金(GOLD)」は、英語で“emergency money”とも呼ばれており、世界共通の有事の際の安全資産として知られております。ここ数年、世界においては新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染蔓延、ロシアによるウクライナ侵攻、アメリカの金利政策、中国バブルの崩壊危機などが起こっており、日本国内においても物価の上昇に伴う歴史的な高インフレ、止まらぬ円安、台湾有事など常に先行きの見えない不透明なリスクを抱えております。このようなさまざまな要因から「有事の金」と言われる金相場が高騰し続け、2023年8月には1グラムあたりの金価格が1万円台と史上最高値を更新しました。この度は、そんな「金相場」のキホンと2023年までの過去の事象を照らし合わせながらお話しさせて頂きます。
まず、「金(GOLD)」は世界共通の価値であり、為替や株などと同じように休むことなく世界の金市場で取引され日々変動しております。市場で取引される際の値段である「金相場」は、国際日付変更線に近い国の主な取引市場である東京、香港、シンガポール、チューリッヒ、パリ、ロンドン、ニューヨークと時差を追って各市場に受け継がれ、ロンドン市場において「金(GOLD)」の現物価格である「現物取引」が毎日午前と午後の2回値決めされています。一方、価格の決まっていない未来の金を取引する「先物取引」はニューヨーク市場で決めらており、公開された相場は国際経済の指標として用いられることがあります。
また「金(GOLD)」は、貴金属などに用いられる単位「トロイオンス(記号はoz)」や「グラム」での取引単位が決められており、国際的には1トロイオンスあたりの米ドル建で取り引きされ、日本国内での店頭表示価格は、米ドル建の価格をもとに1グラムあたりの円建価格に換算され公開されています。
代表的な金融商品の投資というと株式・債券・投資信託・FXなどが有名ですが、“ためておく”というイメージが強い「金(GOLD)」の投資もまた、最近は注目されています。なんと言っても「金(GOLD)」は現物自体に価値があり、他の投資と違い価値がゼロになることはないと言った魅力があります。そして個人が多く手掛ける「金(GOLD)」の投資には、代表的なものとして「金地金」「金貨」「純金積立」「金上場投資信託(ETF)」などがあり、一般的に金相場と株価には逆相関性があると言われているため、資産運用面で投資のリスク分散から、主役の株と組み合わせて金を保有する人が多い傾向にあります。
では、金相場が“上がる・下がる”原因はどのようなことが考えられるかというと、「需要と供給のバランス」「世界経済・金融のリスク」「米ドルに対する信用」「経済主要国における金利政策」「地政学的リスク」などが挙げられます。
「需要と供給のバランス」は、金(GOLD)の需要に対する供給量(産出量・リサイクル等)のバランスで、需要に対し供給が少なければ金の価格は上がり、供給が多ければ下がります。ちなみに近年において金の産出量は減少傾向にあります。
「世界経済・金融のリスク」は、コロナショックなどを発端とした世界的な景気停滞による懸念、国内においては増税や物価高・賃金安によるインフレなど経済の不安要素が高まると、価値がゼロにならない安全資産である金を買い求める人が増え価格を上昇させます。逆に経済が安定していると、株などの投資に注目が集まり金価格は下がる傾向にあります。
「米ドルに対する信用」とは、世界の基軸通貨である米ドルに対する信用で、個人投資だけでなく世界各国の中央銀行を含め、米ドルの信用が揺らぐことで万が一のリスクに備えて大量の金を積極的に購入・保有をし始め相場が上昇し、信用が高まれば下落傾向にあります。国内で言えば円安ドル高になれば上昇、円高ドル安になれば下落するといった値動きです。
次に「経済主要国における金利政策」ですが、先進国(G7)などの経済主要国における国債の利回りが超低位で推移しているため、投資家たちは金利は生まないが価値がゼロにならない金を購入する傾向にあり、金価格が上昇します。逆に利上げされれば、利益を求めるため金より魅力のある金融商品が注目され金価格は下がると言われています。
最後に「地政学的リスク」ですが、世界のある特定の地域が抱える政治的・軍事的・社会的な緊張の高まりによって、その地域の経済や世界経済全体の先行きを不透明にするリスクを指し、現在もロシアのウクライナ侵攻やイスラエルにおけるパレスチナ問題が勃発しており、中国における台湾有事なども懸念されています。このような緊張が高まると金価格は上昇傾向にあり、リスクが少なければ下降すると考えられています。

過去の事象と「金相場」の関係性

“有事の金”と言われる「金(GOLD)」は、前述でお話しさせて頂いた複数の要因により、世界経済や金融市場においての不安心理が膨らむことで注目され価格が上がる、世界共通の安全資産として知られています。その所以は、過去の有事と照らし合わせても頷けます。ここからは近年おける様々な事象を振り返りながらその関係性について紹介します。
まず最初に、世界経済が足並みをそろえたのは1813年にイギリスで初めて確立された金を通貨の価値基準とする制度「金本位制」に始まり、日本においても明治維新直後の1871年に採用しており、金価格に準じた為替の固定相場が100年以上続きました。その後、世界大恐慌や第二次世界大戦等を経て「金本位制」のシステムに支障が出始め、1973年に「金本位制」は廃止され為替は変動相場制へと移行しました。これにより「金相場」も変動することとなり現在に至ります。
1973年中東戦争による第1次オイルショック、1979年第2次オイルショック、同79年ソビエト連邦によるアフガニスタンへの軍事介入、1982年イギリスとアルゼンチンによるフォークランド紛争、1990年の湾岸戦争、2001年のアメリカ同時多発テロ、2003年のイラク戦争、2019年に顕著になった米中貿易摩擦や香港のデモ、2020年初頭のアメリカとイランの緊張関係、同20年5月にアメリカで起こったBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動などいずれも地政学的リスクの高まりが要因でいずれも金価格が急騰しました。
また自然界においても、地球温暖化などによる気候変動の影響を受け地球規模の大規模な自然災害が多発、世界的に流行した感染症である2002年のSARS・2012年のMERS・2013年の鳥インフルエンザ・2019年の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大などの影響で、世界経済にも多大な影響が出始め投資家を中心に安全資産である金に買いが集まり歴史的な高値で推移する傾向になりました。
一方で2019年に金の産出量が11年ぶりの減少となったことや、金の埋蔵量がこのままですとあと10数年で枯渇すると言われ、需要と供給のバランスが崩れると言った「ピークゴールド説」を唱える学者もおり、ブラックマンデーやリーマン・ショックの時のような世界的株価大暴落の恐れや、インド・中国と言った新興国の台頭により米ドルに対する信用の薄れから、2022年に入ると国内においても金相場は過去最高値を連続して更新しました。
このように過去の歴史を振り返ると、必ずと言って良いほど安全資産として「金(GOLD)」が買われ相場が高騰することが分かります。

2023年歴史的な価格を更新

2023年8月、国内小売価格1グラムあたりの金相場が史上初めて1万円台を突破し、9月に入っても歴史的な高騰を続けたことで世間を賑わせました。世界的にみても金相場の上昇傾向は続いており、その背景には原油や天然ガスの価格高騰、ウクライナ情勢による穀物の価格上昇などコスト増を発端とした2021年頃から続く世界的なインフレの進行が関係しており、国内に目を向けてみても円安ドル高傾向が依然続き、円の価値が下がったことで「金(GOLD)」が一層注目される結果になったと推測します。また、中国バブル崩壊による経済不安や台湾有事と言った先行きの見えない不確定要素も、小売価格の上昇に拍車をかけていると言えます。
この記録的な金相場の推移により“安全資産”として買い求める人がいる一方で、価格上昇を受け「金(GOLD)」を売却する人も増えています。弊社においても通常の2倍近く買取を依頼する方が訪れており、中には投資目的で保有していたインゴットを持ち込まれる方もおります。また、ご自宅に眠っているような使わなくなった一昔前の指輪やネックレスなどの金製品は、金(GOLD)が贅沢に使われたデザインが主流であったため、金の含有量も多く買取価格も期待できます。

2023年9月後半に入り金相場は下降傾向にありますが、世界経済の不透明感が増す中、将来の振れ幅はどう展開するか目が離せません。今後の「金相場」の展望や予測については、後編でまたお話しさせて頂きます。

Written by 上田勝太

上田 勝太

ゴールドプラザ 主任鑑定士
1985年生まれ 鑑定士歴15年
月次の最高買取金額10億円 各ニュースに出演

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