2024年上半期歴史的な金相場高騰とその背景
2024/06/03
2024年に入り4月・5月と金(ゴールド)の国内小売価格は史上最高値の更新が続いており世間を賑わせています。また近年の相場高騰の特徴は従来の理屈に反した値動きをしていることです。今回は2024年上期における金相場高騰の要因やセオリーとは異なるその背景について解説させていただきます。
最高値の更新が続く2024年上期の金相場
世界共通の安全資産として知られている金(ゴールド)。世界の市場で日々取引され変動する金相場(金価格)は、昨今歴史的な高騰を繰り返しております。2023年8月には1グラムあたりの国内小売価格が1万円台と史上最高値を更新しニュースやメディア等で話題になりました。2024年4月に入ると国内小売価格は1万3千円台を越え、5月には5営業日連続で史上最高値を更新するなど、歴史的高騰が続いております。今回は2024年上期における金相場高騰の背景についてお話しさせていただきます。
別のコラムでも解説させていただきましたが、ここでキホンをおさらいしておきますと、市場で取引される際の金の値段である「金相場」は、国際日付変更線に近い国の主な取引市場、東京・香港・シンガポール・チューリッヒ・パリ・ロンドン・ニューヨークと時差を追って各市場に受け継がれ、ロンドン市場において「金(ゴールド)」の現物価格である「現物取引」が毎日午前と午後の2回値決めされます。一方、価格の決まっていない未来の金を取引する「先物取引」はニューヨーク市場で決めらており、公開された相場は国際経済の指標として用いられることがあります。
また金(ゴールド)は、貴金属などに用いられる単位「トロイオンス(記号はoz)」や「グラム」での取引単位が決められており、国際的には1トロイオンス(約31.1グラム)あたりの米ドル建で取り引きされ、日本国内での店頭表示価格は、米ドル建の価格をもとに1グラムあたりの円建価格に換算され公開されています。
近年注目されている金(ゴールド)の投資には、代表的なものとして「金地金」「金貨」「純金積立」「金上場投資信託(ETF)」などがあり、株式・債券・投資信託・FXといった金融商品の投資と違い、金利は付かないものの現物自体に価値があり、価値がゼロになることもないといった魅力があります。
そして金(ゴールド)には、火事等にあっても形は変わるが燃えずに残る「耐久性」、酸化せず錆びず光沢が続く「普遍性」、現金化や売買もしやすく持ち運びが比較的容易な「流動性」、資源としての絶対量に上限がある「希少性」といった側面から、いにしえより資産としての特徴を持ち合わせています。近年における金(ゴールド)の値上がりは、世界各国が発行する通貨・貨幣では補えない資産としての特徴と関係性があり、世界共通の価値を持つことから“有事の金”、英語では“emergency money”と呼ばれ、様々な局面において国際情勢が不安定なときほど相場は値上がりする傾向にあります。
2024年上期の世界における金相場急騰は、基軸通貨米ドルを担うアメリカのインフレ率上昇や様々な地政学的リスク、経済主要国における金融政策など、世界全体で先行きの見えないあらゆる不安心理が作用した結果だと言われています。さらに日本においては国際価格よりも値上がりが大きく、その要因として円安が進み34年ぶりの円安水準と、対ドル高のダブル効果で円建価格が大きく上昇しています。
ミステリアスラリーと歴史的高騰の背景
貴金属としても重宝される金(ゴールド)の相場は、前述でも述べた通り国際情勢が不安定なときほど相場は上がり、安定するほど下がる傾向にあります。具体的にはロシアによるウクライナ侵攻の長期化、イスラエルによる中東情勢の悪化、台湾有事の懸念など「地政学的リスク」、「世界経済・金融のリスク回避」「米ドル・米国債に対する信用の低下」「世界的なインフレへの懸念」「需要と供給のバランス崩壊」などが挙げられ、2024年における金相場高騰の理由もこれら要因が複合的に重なった結果と考えられています。
また、近年の歴史的な相場高騰は従来のセオリーに反した値動きをしていることが特徴です。ここ数年、新型コロナウイルス感染症の急拡大に伴う経済対策の一環として各国の中央銀行は政策金利を引き下げて通貨の流通量を増やしてきましたが、2022年3月から米連邦準備理事会(FRB)は利上げに舵を切り、アメリカの金利は上昇しています。従来の教科書的なセオリーで言えば基軸通貨である米ドルの金利が高い時には、利息の付かない金(ゴールド)の相場は人気がなく下がる傾向にあります。しかし、ここ最近はアメリカの金利が高い(上がっている)のにも関わらず金相場も上昇し、従来の理屈では説明しにくい値動きを見せており、しかも最高値を更新し続けています。さらにおかしいのは、金上場投資信託(ETF)において投資家により金(ゴールド)が売られているといった現象も起こっており、このような動きを貴金属業界では「ミステリアスラリー」と呼び、セオリーに反した値動きをしたのは初めてと言われています。つまり“金利と関係なく金(ゴールド)を買っている者がいる”ということになります。
それは一体誰なのかと言えば、その一つにBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)を中心とした新興国の中央銀行による金保有増加(金購入)にあります。イギリスに本社を置き主要17か国に拠点を構え金(ゴールド)の調査研究や世界各国の公的機関へ支援等の活動を行う非営利組織「ワールドゴールドカウンシル」よると、2004年〜2024年における各国中央銀行の金保有増加量トップ5は、1位ロシア・2位中国・3位トルコ・4位インド・5位ポーランドと発表されており、ここ数年においてはロシアと中国の2カ国が突出して爆買いしています。ちなみに日本は18位であり保有増加量も平行線です。その背景にはアメリカとの対立、世界的なインフレによるリスクヘッジ、地政学的リスク・デフォルトリスクの分散要因などの理由で信頼性の高い金(ゴールド)を保有しておきたいといった意図が垣間見れます。特にロシアはウクライナへの侵攻により西側先進国中心に経済制裁をうけており、外貨準備として持っていた信用の低下が続く米国債を売って金(ゴールド)を購入していると言われています。
そしてもう一つに、中国やインドといった新興国の国民による金(ゴールド)の購入が加熱していることです。基軸通貨の米ドル離れは新興国を中心に広がっており、特に中国は株や不動産などバブルが弾け市況が悪化し、投資対象が限られているため金(ゴールド)の投資に集中しています。それぞれ14億人規模の人口を抱えており、その国民たちが各々買い始めれば、金(ゴールド)が足りなくなり相場が上昇するのは当たり前のことと言えるでしょう。また余談になりますが、アメリカ地質調査所(USGS)の調査によると、世界の鉱山に眠る金(ゴールド)の埋蔵量はあと約6万トンと発表されており、わかりやすい例えですと、世界中に存在する金(ゴールド)は50mプール約5杯分で、これまでに採掘された採掘量は約4杯分、つまり残り約1杯分しか埋蔵されておらず、このままのペースで採掘したらおおよそ16年〜20年後には掘り尽くされてしまうと言われています。ちなみに毎年鉱山で採掘された金(ゴールド)の3割程度は新興国が購入しているのが現状です。
今後の金相場について
金(ゴールド)の需要目的は大きく「投資目的」と「安全資産」の二つにあります。この二つのいずれかの需要が高まれば相場は上昇しますが、インフレをはじめとする様々な要因が複合的に重なった2024年は金(ゴールド)の保有を増やそうと両方とも需要が加熱しております。今後の金相場はどうなるのか、専門家をはじめ意見は分かれています。伊豆土肥金山の施設に展示されている世界一巨大な250キログラムの金塊は、当時は約4億円でしたが2024年5月時点で時価は約31億円となり、ニュース等で取り上げられました。一方で投資の神様ウォーレン・バフェットは投資としての金(ゴールド)購入には否定的な意見を述べています。
日々目まぐるしく変わる世界情勢。2024年11月にはアメリカ大統領選も控えており、国際的な政治状況や経済の動向を注視することが金相場予想には重要となります。最近では予想や傾向を分析するためにAIの活用が採用されていますが、不安定要素や不確実要素までは今の技術ではAIでの予測は不可能だと考えます。世界経済のリスクを敏感にキャッチし、広い視野での分析とリスク管理が金相場の展望を探る最大のカギとなるでしょう。ぜひゴールドプラザホームページ内の金相場推移チャートを参考にお役立てください。
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