真珠(パール)価格高騰、その背景
2024/12/02古来より月のしずく・人魚の涙と例えられ、海の宝石と呼ばれている「真珠(パール)」。ここ数年、あこや真珠を筆頭に日本産真珠の価格が高騰し続け、中古市場においても買取価格が上昇しております。今回は日本産真珠の価格高騰の背景について解説させていただきます。
日本産の真珠(パール)がここ数年で高騰
人類最古の宝石と呼ばれ、古来より月のしずく・人魚の涙に例えられ珍重されてきた「真珠(パール)」。その中でも美しく質の高い日本産真珠が、ここ数年世界的に注目され販売価格が高騰しており、中古市場においても買取価格が上昇しています。この度はそんな日本産の真珠価格高騰の背景や要因についてお話しさせていただきます。
まず真珠(パール)には種類があり、あこや真珠(アコヤパール)・マベ真珠(マベパール)・黒蝶真珠(黒蝶パール・ブラックパール)・白蝶真珠(白蝶パール)・淡水パールなどが存在しております。日本においては、1893年(明治26年)に「ミキモト(MIKIMOTO)」の創業者である御木本幸吉が、あこや真珠の養殖に世界で最初に成功したのを皮切りに、田崎真珠(現タサキ・TASAKI)が1970年代絶滅寸前だったマベ貝の世界初の人口採苗技術を開発し、“幻の真珠”と呼ばれていたマベ真珠の養殖に成功、さらに現在はタヒチが主な養殖地となっている黒蝶真珠も沖縄県・石垣島が世界で初めて養殖に成功するなど、日本の重要な水産物として知られています。
そんな日本の真珠(パール)ですが、国産あこや真珠を中心に近年海外で高い評価を得ており、世界的に人気が高まっております。かつて冠婚葬祭等のフォーマルな場で女性が身に着けるのが定番だった真珠(パール)は、今やカジュアルに付ける装飾品として、また男性向けのパールジュエリーとしても人気が出ています。現在では、ディオール(DIOR)・シャネル(CHANEL) ・コム・デ・ギャルソン(COMME des GARÇONS)といった多くのブランドも真珠を使ったアクセアサリーを積極的に展開しており、有名デザイナーのマーク・ジェイコブスは、“幸運のお守り”としてミキモト(MIKIMOTO)の真珠ネックレスを愛用しているのは有名です。
では何故日本の真珠がここまで世界から注目されているのか、その理由としてかのエジソンも“世界の驚異”と称えた国産あこや真珠は、卓越したテリ(光沢)・真円に近いカタチ・独特の輝きを放つ豊な干渉色など、美しく質の高いものが多いことで知られており、日本の四季による寒暖差でしか生まれない“上品なやさしい輝き”が人々を魅了していることが所以となります。
日本で生産されている真珠の主流あこや真珠は、特に中国をはじめとしたアジア圏での需要が非常に高く、国際展示会などでは中国本土をはじめ世界中のバイヤーが殺到していることは、ニュースなどでも取り上げられています。一方で国内の生産は追いつかず、需要増・供給減が真珠価格の高騰を招いていると言われています。ここ10年でいえば金(GOLD)が約1.8倍に対し、国産あこや真珠は約3倍以上の高騰率で、日本産真珠の販売価格は2023年頃から約2倍に上昇しています(2024年11月時点)。
真珠(パール)価格高騰の背景について
世界的人気を誇る日本産の真珠ですが、価格高騰となった背景にはいくつかの要因がございます。ここではその要因について具体的にお話しさせていただきます。
まず一つ目は、あこや真珠の生産量の減少と供給の不安定さが挙げられます。2019年の夏頃から、あこや真珠の一大養殖地である三重県伊勢・志摩や愛媛県宇和島において、新種のウイルスが原因でアコヤガイの母貝と稚貝が大量死する現象が起こり、2022年になり原因が解明されたものの解決には至っておらず、生産量が大幅に減少しました。さらに地球温暖化の影響を受け、海水温の上昇に伴う環境の変化が真珠の養殖を困難にさせ、高品質の真珠が年々減り続けています。そして追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスによる輸出の制限、円安による燃料費や人件費の負担増により養殖業者数の減少傾向に拍車をかけました。2023年7月に発表した水産庁の資料によると、養殖業者数は2018年までの過去25年間で約7割減少とあり、後継者不足や生産体制の脆弱化が供給減に繋がり価格が高騰していると考えられています。
次に真珠市場における流通量の構造変化が挙げられます。日本産あこや真珠の品質の高さが海外でも評価されるなか、求めたい消費者の急激な増加に伴い、国内外の卸売業者・バイヤーによる積極的な買い付けが市場原理において販売価格を上昇させ、さらなる価値を上げるために売り惜しみもすすみ、従来の真珠市場における流通量の構造が変化し相場を押し上げていると言われています。
そして、国内における高値の入札やインバウンドによる積極的な購買行動も、価格高騰の要因としてさらなる拍車をかけています。需要増・供給減による国内養殖産地での入札価格の高騰が販売価格も上昇させ、国内消費者が手が届かない一方で世界的な日本産真珠の人気や需要を背景に、円安による海外観光客の積極的な購買行動もあり、価格が下がらない傾向にあります。
最後に、世界最大のマーケット中国での真珠ブームです。近年中国では、習近平国家主席の妻・彭麗媛夫人や、人気女優や有名人が日本産の真珠を着用したこともあり人気に火がつき、真珠は日本の水産物ではありますが福島第一原発の処理水放出における中国政府の輸入全面停止措置の影響は受けていないため、中国人バイヤーによる大量の買い付けが行われており、希少価値が高まっております。
また、昨今は中国以外のヨーロッパやアメリカの購買客も増えており、このようなマーケットにおける需要と供給のバランスの崩れから価格が高騰し続けているのが実情です。
今後の真珠(パール)価格の動向
冒頭でお話しさせていただいた通り、国内産真珠は日本の重要な水産物であり輸出品です。生産量が減少傾向にあるなか、日本政府も手をこまねいているわけではございません。農林水産省は真珠の輸出拡大に向け取り組みを強化しており、品質を担保し適正な取引が可能になるようBtoBの展示商談会など対策を打ち出しています。
とはいえ、国内の真珠価格が今後どのように推移していくかは、専門家の中でも意見が分かれています。価格動向のポイントになるのが、世界最大のマーケット中国の需要、アコヤガイの生存率を上げる対策、そして養殖業者の後継者不足問題などに注目することが大切になります。以上のようなことが改善できれば近い将来、国内真珠は適正価格に戻るかもしれません。いまだ不透明な真珠価格ですが、お手元にある真珠の価格が気になる方は、売る売らないは別として一度買取査定にお願いしてみるのも良いでしょう。